プロフェッショナルIQとEQ (戦略編)

前回、なぜ転職のマインドの話から始めてテクニックやスキルの話をすぐにしないのだろうか、まどろっこしいなと思われたかたがいらっしゃるとしたら、「見落としている重要な要素がありませんか?」

ここでプロフェッショナルとして成功するために必須の2つの要素をお伝えします。それはプロフェッショナルIQとプロフェッショナルEQです。(通常使われているIQとEQを仕事を遂行していくプロフェッショナルに必要な部分の狭義としてここでは使用しています)

この2つのうちどちらも高くもっていることがビジネスの成功には必須で、どちらか一方だけ非常に高くてもどちらかが低いと、成功は不可能です。これは、多くのかたを10年以上のキャリアの変遷を通してみてきて筆者が実感することです。そしてこのうちの特にEQは、人生の大きな転換点、分かれ道であるキャリアチェンジで成功する人、失敗してしまうひとも決めていくのです。これを知っているのと知らないのとでは、キャリアチェンジもキャリアも人生も大きく違ってくるのです。

 

ではここで両方を説明していきましょう。

プロフェッショナルIQ (Intelligence Quotient):プロフェッショナルとして仕事を遂行していく知力、知性

プロフェッショナルEQ*(Emotional Intelligence Quotient):プロフェショナルとして仕事をしてく感性、独立したマインド、他者への共感力

*EQはIQに対して、Emotional IQの略で、感情指数すなわち心の知能指数のこと。イエール大学のピーター・サロベイ博士と、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士が1989年に初めて論文Emotional Intelligenceで発表した概念。「情動が私たちの行動に重大な影響を与えている。情動をうまく管理し利用することは知能である」(1990 Dr. Peter Salovey & Dr. John D Mayer) その後ハーバード大出身の心理学者ダニエル・ゴールマンによって体系化され、1996年に「EQ 心の知能指数」としてまとめられ、全米でベストセラーとなり、その後世界各国でも話題となり、現在は多くの企業研修にもとりいれられています。

 

プロフェッショナルIQは実際の仕事を進めていく上での知力、知性です。未来を見据えて経営戦略をたて、ロジカルに考えて、PDCAを回していく。広い業界、世界の視野をもち考えることができる、仕事に必要な専門知識やスキルを持つ、説明能力が高くプレゼンテーションがうまい、時間を守りプロジェクトをマネージして仕事を遂行していくことができる能力などがこれにあたります。左脳的な能力、そして、よくハードスキルともいわれる、特定の仕事に必要な知識専門技能もこれにあたります。

 

プロフェッショナルEQはプロフェッショナルとして自分の感情をコントロールし、冷静な判断ができリスクがとれる独立したマインド、成熟した人格を作っていく能力、他者を理解する感性、それによってチームワーカーとして、チームマネージし、リーダーとして率いていくことのできる心の知能です。

人間としての成熟度、自分の感情を受け入れながらもそれに振り回されず、むしろそれをうまく使って自分の感情を味方につけコントロールしていくことができる、他人の立場にたってみたり考えたりすることができる、想像力があるため思いやること配慮ができるなどの対人能力があり、チームプレーやとしてうまく協業できる力、また人生、仕事が思い通りに(計画どおり)にいかない辛い場面でも簡単にあきらめることなく忍耐強く行動を続け目標を達成する力などです。

 

以下具体的にプロフェッショナルのIQとEQの特性をまとめてみましょう。

プロフェッショナルIQが高いと

  •  特定の仕事を行うのに必要な知識、スキルをつけてい
  • 論理的に考えることができる
  • 地頭がよい(またそれを現場に応用していく力)
  •  特定の業界の将来を情報収集を基に自分で考え見通した自分の意見をもっている
  • 日本経済、世界経済についての今後1年、3年。10年後の自分なりの見通しや予測、意見をもっている
  •  ファクトベースで話をすることができる
  • 自分のてがけるビジネスについて全体を俯瞰しながら、自分の担当分野を明快に、正確に説明することができる。
  • タイムリーに行動することができる(自分できめた期限を守ることができる)

 

プロフェッショナルEQが高いと

  • 高いコミュニケーション能力をもつ
  • 主体的に行動できる(他人本位でない、受動的なリアクションに終始しない)
  • 自分の価値観、意見をもつ
  • 感情にふりまわされず、自身の感情を自分でコントロールし(感情の奴隷にならず、感情をうまく使いこなし)、落ち着いて意思決定をしてくことができる (これは業務上でも、また転職などの個人的な意思決定もはいります)
  • 苦しい時への耐性がある。困難にあっても逃げずにリーダーシップを発揮する。(スポーツ、大好きな趣味、こころおきなくのめる飲み仲間など仕事以外の自分を思いきり表現しエネルギーを放出できる場所、ことをもっている)
  • 相手の立場にたって考えられるため、良いチームワークをつくれる
  • 家族、恋人、親友、メンター、恩師など、仕事以外のプライベートの自分のサポートネットワークをもっている
  • お世話になった方にお礼をきちんと伝えられる(感謝がある)。人に誠意をもった行動ができる
  • 対立する意見を話し合い調整できる
  • フェアであり、自分の間違えを認め、謝ることができる。
  • 真実を話し、率直なコミュニケーションができる。
  • 部下にときには厳しいアドバイスもできる。
  • しっかり調べてD.D.したうえで、ここぞというときに覚悟を決め、決断できる(そのリスクがとれる)
  • 一度決心し、選択をしたら、選んだ選択肢を全力で正解にする。(その努力をする)

このような特性をプロフェッショナルIQ、プロフェッショナルEQが高いかたかたは、それぞれもっています。

 

EQがモノをいう

さて、プロフェッショナルEQは転職の際にも表れます。もし、

  • 転職をしたい理由が明確でない
  • 同じ理由でいつも転職をしている (学びがない)
  • 転職の理由をいつも他責にし(事実の場合はしかたがない場合ももちろんあります)、
  • 自分の意見は後回しにして、人からどう思われるか(評判)を気にして転職する

等が見受けられれば、学びがない未成熟な人として、プロフェッショナルEQが低さを示すことになります。

本当の転職理由をいうと落ちるので、演技や、口からでまかせをいえばなんとかなると思うかたもいらっしゃるかもしれませんが、面接官には腑に落ちない、論理的でない(真実でないので当然です)と思われることが多いです。逆にそれに簡単に騙されるような企業はそれだけの会社である、つまり入社してから今度は自分が失望させられる可能性も大きいのです。これではお互い似た者同士という悲しい結果です。

一方プロフェッショナルEQが高い人は、実力をあげていくなかで、明確な目的をもって次の転職先を探し内容を重視した転職をします。ひとつのところで必ず実績をあげる力があり(それまで自分を律し頑張る)、そこから何かを達成できるというセルフコンフィデンスを持っています。また、EQが高い方はキャリア構築も戦略的に、しっかり考えて行っているため、転職の失敗が少ないです。もちろん、転職にはリスクがありますのでそれでもゼロにはなりません。しかしながら、不遇にあうことがあってもそのEQの高さから周りのかたに引き上げられたり、助けられることがとても多いのも特徴です。EQの高いかたの行動は以下のようなものがあります

  • 現職でリストラが続く業績のフェーズでも残るときめたら、しっかり実績を積んで業務をこなし、そののちにタイトルが昇格、躍進していく基盤をつくる
  • 厳しい局面でも耐えて経営改革を実行し、半年から1年以上をかけて会社のマネジメントを変えていく
  • 苦しい時のリーダーシップをとったことにより、後に役員へと昇進する
  • やめたくなるようなマイナスにみえることが現職でおきても、外によいポジションがない時は忍耐してJOBHOPPERにならず、転職できる次のよいタイミングをつかまえられる(逆に反対の低EQパターンはここで、我慢がきかず、転職し、本当にいいポジションがあるときに転職ができない。)

 

「キャリアの成功」や「仕事のできるひと」というと、プロフェショナルIQの内容が外面的に分かりやすく、それだけをつい考えてしまいがちです。しかしながらEQの高さが伴っていないと、せっかくのIQも生かすことができないのです。それはスポーツでいくら技術が優れていたとしてもメンタルができていないと試合で負けてしまうことに似ています。

例えば、イチロー選手は、毎日の鍛錬で野球、ピッチングの優れた技術(=プロフェッショナルIQ)を磨くと共に、それを習慣化することで強いメンタル(=プロフェッショナルEQ)も同時に磨いてきました。彼の史上まれにみる記録や、長い期間の活躍はプロフェッショナルIQとプロフェッショナルEQがどちらも高いからこそ成しえたことです。

また、地頭がよく、仕事のスキルや知識もありプロフェッショナルIQが高くても、人格が周りから信頼されこの人となら一緒に頑張ろうと思ってもらえないような、自分だけよければよい、人を傷つける言葉で無駄に暴言をはく、目上のかたにばかりへつらい後輩の手柄はすべて自分のものにして部下への感謝がない等をやっていたら、それはプロフェッショナルEQが低いということです。いくらプロフェッショナルIQが高くても、こういうひとに周りはついてこない、周りがついてくる本当に周りから尊敬されるリーダーにはなれないのです。そういうかたは孤独で、どんどん人が離れていき、また仕事でも一人で完結するようなしごとであれば、成功する可能性はありますが、多くのひとと一緒にチーム、組織でする仕事では成功することは難しくなります。

 

逆に人としてはすごく好かれ、信用される、けれども、ご自身の内観と市場のサーチによりキャリア戦略をきちんとたてずにいつも短絡的に仕事を選び、スキルセットをあげていくトレーニングや実務経験を積む努力(異動や転職、留学といったTOOLも含め)をしていなければ、それは、プロフェッショナルIQは低い、優れた人柄というプロフェッショナルEQの高さという大きなプラスがうまく使えていないということになります。

いかがでしょうか。周りにそういうひとがいるなと、思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

スポーツと共通して、ビジネスでも成功へのライバルは実は競合他社や、社内の優秀な同僚ではなく自分自身ということ、とても多くあると思います。昨日の自分より成長した自分になるために、EQが大事になってくるのです。

転職のように、知力、体力、精神力、人間力を集中して問われる場面ではこの両方が試され、特に、淡々と準備をする忍耐力、活動中の自分軸を見失わないぶれない軸を持ち続けるメンタルの強さ、誠実さ、また転職意思決定の場面などでEQが大きくものをいうのです。

転職ひいてはプロフェッショナルとしてのキャリアの成功に必須のEQを高めるにはどうしたらよいのでしょうか?:

優れた上司、ご両親の育て方、経営者のメンターや教師、若いころのスポーツチームでの鍛錬に恵まれたり、予想していなかった外部環境の困難に遭遇し生きてきた中で自然にプロフェッショナルEQが育っていっているかたもいます。けれどたとえそうでなくとも、意識してプロフェッショナルEQをプロフェショナルIQと共に大事に育てていってほしいのです。例えば以下のような活動はEQの向上に役立ちます。

ー自分のコンフォートゾーンを超えたゴールをつくり(目標設定)と時間設定をし、それに向けて行動する

―アカウンタビリティパートナーをつくり毎週、自分の目標をお互いシェア、次回までに成し遂げたか、次のコールやズームミーティングでチェックする

―メンターを作って、自身の成長を意識的に意図して過ごす

―前向きで、成熟した経営者や、一緒に頑張れる仲間をつくり定期的に会って、近況を報告し励ましあう(これは意図して作らないとできないコミュニティです)

ー優れた経営者の著作を読み勉強する

40代50代になってもプロフェッショナルIQやプロフェッショナルEQが低いかたはいます。一方20代後半ですでに非常に高いプロフェショナルEQをお持ちのかたもいます。自分は「EQが実年齢に伴っていない」、「プロフェッショナルIQにEQが伴ってない」にあてはまってしまうと思われたかたは、気づいて行動を変えるのは早いほうが(その後の人生の展開に大きな影響を及ぼすので)良いですが、年齢がある程度以上にいっていたとしても気づいて、変えていけば、なにかの良い方向にはむかっていけますし、ご自身のなかでの認識が変わることにより、今後の生き方が変わるはずです。

どちらも高いかたはどんなかたでしょうか?例えば京セラ名誉会長の稲盛さんはどちらも高い素晴らしい経営者と私は思います。彼ほど名前が知られていなくても、世の中にはそのようなかたは存在しています。周りにそういったかたがいらっしゃると感じる方は、とても幸運です。ロールモデルとしてどんどんそういったかたから学んでください。

プロフェッショナルIQとプロフェッショナルEQの大事さに気づいて、スキルセットや知識というハード面だけではなく、心の器、リーダーとしての器、マネージメントとして、そして人間としての器をしっかり育てていってください。

 

キャリアの成功に本当に重要で、ものすごく力が入って長文となりました。特に若い皆さん、どうか心に留めて、EQを上げる精進をしてください。(私も精進中の身です)

 

次回は転職の(行動編)です。転職活動の順序、プロセスを陥りやすい罠や、絶対に気を付けるべき点、重要な頑張りどころなどポイントを指摘しつつ、お話しします。